小説・日本参戦21

大輔は戦争のさなかにある自分に戻った。車の中は少し息苦しい。あと15分もすれば、前線の指令本部に着くだろう。母があの映画を運命的にとらえたのは、今ならわかるような気がする。 「俺は戦闘中に、あの映画の二人のようにハチの巣になって死ぬのだろう…

小説・日本参戦20

「明日に向かって撃て!」の監督は、ジョージ・ロイ・ヒル。ダブル主演の二人は「ロバート・レッドフォード」と「ポール・ニューマン」だった。アメリカ西部の開拓時代、二人は銀行を次々と襲う。しかし、やがて、多数の保安官に追われ、ボリビアに逃げ、そ…

小説・日本参戦19

その部屋に入った時、驚愕のため声も出なかった。本棚には雑誌「GUN」のシリーズや銃に関する本が目白押しだった。さらに驚いたのは、壁を埋め尽くさんばかりに掛けられた小銃の数々。友人はいった。 「これまで、この部屋には誰も入れたことがないんだ。…

小説・日本参戦18

前橋市に向かう複数の道路は一般車両の通行が遮断され、信号機は、オールグリーンだった。車両は、時速50キロを維持し、一時間足らずで前線本部に到着した。近くに広い運動公園があり、戦車やそれを搭載する50トントラックを含む、軍用車両が集められた…

小説・日本参戦17

特別狙撃班に配属された大輔は、敵が前橋市に到達したことを知った。すでに、軍曹に昇進していた彼は、防衛省本部での会議で明らかにされたのだ。会議は長引いた。結局、前橋市内の敵から10キロの地点にあるビルに前線本部が設置されることになった。長い…

小説・日本参戦16

この天皇の発言を聞いていた誰もが泣いた。渋谷駅前のマルチスクリーンを見ていた多くの人々の前に読売テレビのレポータがマイクを近づけて声を拾っていた。下を向いて誰はばかることなく大声で泣きじゃくっていた老人は「陛下が一緒に死んでもらえるなんて…

小説・日本参戦15

いくら、日米安保条約が発動されたとはいえ、自衛隊として手を拱いているわけにはいかない。このままでは、東京が危ない。 岸田首相は、宮中に参内し、天皇陛下に安全な場所、例えば、北海道か京都へ避難することを申し出たかった、陛下は執務室に岸田文雄を…

小説・日本参戦14

アメリカの軍事予算は、日本円にして127兆円にのぼる。人的にも、陸軍47万、海軍40万、空軍37万人という大規模なものだ。世界の警察官たる所以はここにある。 日本にある米軍基地は、三沢、横田をはじめとして130か所にある。 大統領は横須賀を…

小説・日本参戦13

大輔は特別狙撃犯に配属された。この間も中国陸軍はじわじわと南下していた。 中国旅順港からは、巡洋艦「青島」「深圳」のほか、駆逐艦「丹東」「昭通」に加え、原子力空母「普級」をはじめとする多数の艦船が日本を目指していた。輸送船の数も普通ではなか…

小説・日本参戦12

大輔はニュース速報に接し、ついに来るべきものが来たと感じた。 やってきた真理子は「どうしたの大輔」といった。「いや、何でもない。俺は、志願して戦争に行くべきだろうか」「そう、大きな決断に迫られているのね。でも、大輔にはこの国を守って欲しい。…

小説・日本参戦11

日本の自衛官の総数は、155000人にしか過ぎない。即応自衛官は8000人ほどだ。とても、30万人の中国軍に太刀打ちできない。どれほど、ハイテクを駆使した優れた装備をもってしても、しょせん、蟷螂の斧である。

小説・日本参戦10

問題は、潜水艦、および、上陸用の艦艇を見逃したことだった。中国の主力艦隊はいわばおとりだったのだ。中国の主力艦隊は、博多に向かっていた。それは、哨戒機も確認している。自衛隊の幹部は、その主力艦隊の動きから博多上陸説に傾いた。 その隙をついて…

小説・日本参戦9

そして、ついに戦闘海域に達した。これを知った明治の歴史を研究する在野の学者の一人は、友人の一人にこう言ったのである。「再び日本海海戦が起こるとは思わなかったな」 日本の各基地に駐機する航空自衛隊の、F16、F15戦闘機が飛来した。中国空軍Jー2…

小説・日本参戦8

中国空母「遼寧」を主力とする艦艇20隻が旅順港を離れたのは、習近平による宣戦布告から、一週間後だった。艦艇の中には上陸用舟艇を収納する船が30隻。空からの部隊を降下させる輸送機が30機と事実にに大がかりのものだった。部隊は次から次へと港を…

小説・日本参戦7

翌日の日米安保論の授業は、紛糾したといっていい。柴田教授は、強固な日米全保障条約反対論者だったからだ。学生たちから、吊るし上げになったといっても過言ではなかった。教授は、しどろもどろになって自論を述べ、早々に、授業を切り上げた。誰かがいっ…

小説・日本参戦6

臨時国会は紛糾した。まず、官房長官が登壇したが、野党のヤジに、代わって首相が答弁に応じた。まず、口火を切ったのは、共産党の女性初の委員長、田村智子議員だった。彼女はいった。 「首相は、習近平氏の発言は、単なる脅しとお考えでしょうか」 首相は…

小説・日本参戦5

中国が選んだのは、平和的な道ではなかった。最も近い大国、日本に目をつけたのだ。習近平は考えた。 日本は今まで事あるごとに、わが国に反対してきた。たとえば軍備増強やわが国の悲願でもある一帯一路構想についてもしかり。そして、日本は開かれたインド…

小説・日本参戦4

である。 中国軍二十万人に対して台湾軍(正確には中華民国国軍)は、当初、かなり善戦した。台湾軍の、その規模は、陸上10万、海軍4万(海軍陸戦隊1万を含む)空軍は3万だが、予備役の数がヅ抜けている図ぬけている。その数165万人である。主力戦車…

小説・日本参戦3

山田教授の授業はつまらなかった。教授もすでにニュースは知っているはずだ。しかし、台湾のことについては、全く触れなかった。大輔は聡介とともにサイゼリアにいき、ハンバーグのランチを食べた。二人とも台湾については話さず、もっぱら女や、セックスに…

日本参戦2

大輔は、大教室に足を踏み入れて驚いた。朝一番の授業は人気がない。夜更かしの多い学生にとって朝九時に来るのは苦痛の極みだからだ。 今日は「日米外交論」だが驚くべきことに八割方埋まっている。これはどうしたことか?授業開始までまだ30分もある。そ…

オウム真理教の闇2

この初取材依頼、何度かサティアンを訪れた。天井の梁を這う大きなネズミや、自らの腿を木の棒で叩く修行三昧の男、吊り下げられた洗濯物の数々。彼らが食べる、いわゆるオウム食を試食したこともある。 取材で山梨県の九一色村のオウムの敷地入り口では、必…

オウム真理教の闇1

オウム真理教事件から多くの時間が経過した。平成7年、私は週刊現代の記者として、特別な形で参加した。今から考えてもあの事件には不可解なことが多い。これから書くことが、一部の人を激怒させるか、あるいは、私自身が国家権力に拘束されることも考えら…

小説・日本参戦1

202x年、3月の終わり、まだ桜が散る前、各地で花見が開かれ、ひとびとはその美しさに酔いしれていた。そんな時、緊急事態が起こったのである。 突然、中国人民軍が台湾に侵攻した。中国の共産党中央委員総書記の習近平自身は本気とも嘘ともとれる玉虫色…

ウクライナについて

2022年2月24日未明、ロシアはウクライナに侵攻した。私から言わせれば、これは侵攻ではなく、明らかな侵略だ。YouTubeで次々一刻、その戦争について追っていった。それから、二か月の間、私は文字どおり、毎日、本当に涙を流し続けた。極めつけはブチ…

池波正太郎の鬼平犯科帳

私の家にはテレビがない。だから、テレビで鬼平犯科帳のシリーズが新しく始まっているのか、これからなのか判然としない。だが、故・池波正太郎の「鬼平犯科帳」は全巻読んでいる。 これがなかなか面白い。主人公は火付盗賊改め(現在であれば強硬犯にあたる…