小説・日本参戦3

山田教授の授業はつまらなかった。教授もすでにニュースは知っているはずだ。しかし、台湾のことについては、全く触れなかった。大輔は聡介とともにサイゼリアにいき、ハンバーグのランチを食べた。二人とも台湾については話さず、もっぱら女や、セックスについての話題に終始した。

 聡介はいった。

 「いいよなあ。お前は彼女がいて。お前だから話すけど、実は、俺、童貞なんだ。なんだか女が怖くてな。」

「それ病気じゃないのか」「いやいや、今の若い奴にそんなんが増えてるんだと」「スマホのゲームや推しのアイドルに夢中になって、現実から逃避しているらしい。女が欲しいという俺なんか正常の範囲だぜ」

 聡介が童貞を失ったのは、高校三年の夏だった。伊豆七島へ遊びに級友たちと行ったおり、やはりグループで来ていたОLたちと知り合ったのだ。やや年上だった美人に大輔は猛アタックして名前と会社の番号を聞き出した。

 改めて東京でデートをし、童貞におさらばしたのだ。彼女は、セックスに関しては積極的で、彼が童貞だと知ると優しく導いてくれたのである。それから大輔は女に対して不安が消滅した。駄目でもともとと思い、もしダメだったらという自虐的な羞恥心も失せた。

 聡介はもっと自信を持ち、自分を晒すべきだと 秘かに思った。それが女をものにする秘訣なのだ。自信のある正直な男に女は好感を持つ、ということに聡介は気づいていない。それは致命的な欠点だった。

 3時間もダベって、二人は帰途に就いた。

 大輔はアパートへ帰ると早速テレビをつけた。テレビは、首相の記者会見のLIVE映像が始まっていた。画面には記者の姿が映っていたが、肝心の会見はまだのようだ。五分ほどして、首相が現れた。原稿を用意している様子はない。首相は居並ぶ記者を眺めわたし、堂々とした口調で話し始めた

 「防衛省の関係者から、中国が台湾に侵攻したことを知りました。そして、アメリカ大統領と電話会談したのです。幸いにも、大統領のお考えは、私と同じだった。国際的にみて中国のこの行為は、決して許されるべきではないと一致したのです。また、EU諸国首脳も同意見でした。習近平国家主席をはじめとする中国共産党の首脳に告げます。即刻、台湾から兵を引きあげること。さもなければ、多くの国々の反感を招くだろうというこを。中国の自制を促したい」

 首相は、一切の質疑応答を拒否して退場した。大輔はこの会見を見ていて、深く感じいっていた。日本の首相にこれだけの気骨があったことに。彼は、もっと弱腰だと思っていたのである。記者会見も中国の立場に理解を示しつつ撤退を懇願するものと予測していたのだ。ところが、首相は断固たる意見を表明した。たいしたものだ。

 翌日の早朝、大輔はコンビニで新聞を二紙買った。朝日と読売である。朝日は、中国に遠慮した姿勢が目立ったが、読売は首相の会見を絶賛していた。新聞を部屋で読み、テレビをつけると、ちょうど、中国電視台のアナウンサーが中国政府のコメントを発表していた。

 「中国はいかなる脅しにも屈しない。台湾は歴史から言っても中国に属するものである。これを阻止するものは、いかなる国に対しても、容赦しないだろう。戦いを躊躇しない。中国は世界において並ぶべきもない軍事力を持っている」