小説・日本参戦18

前橋市に向かう複数の道路は一般車両の通行が遮断され、信号機は、オールグリーンだった。車両は、時速50キロを維持し、一時間足らずで前線本部に到着した。近くに広い運動公園があり、戦車やそれを搭載する50トントラックを含む、軍用車両が集められた。

 本部のビルに入ると直ぐにブリーフィングが開かれた。そこでは、戦車群や補給車両のほか、兵員輸送車両ばかりではなく、大輔が乗り込むことになる軽装甲機動車も含まれていた。大輔が車体後部で半覚醒でいると助手席の上官がいった。言葉だけが曖昧に大輔の耳に届いた。

「あいつ、よくこんな時に眠れるな。よほど肝の座った奴と見える」大輔は完全に目を覚ますと大きな欠伸をした。

 運転をしていた男のハンドルを握る手が小刻みに震えている。「自分は実際の戦闘経験は全くありません」そんな男に上官は励ますように言う。「俺だって初めてさ。でも、敵前でぶるっていたら、やられるのは目に見えている。訓練どうりやってればいいんだ。ビルへの侵入のやり方、銃の取り扱い方、味方の援護方法、小銃の訓練は覚えているよな」男は黙ってうなずいた。

 運転する若い男。大輔より一つか二つしか違いないだろう。狙撃の能力のおかげで大輔は異例ともいえる特進。軍曹となったが、運転する男の名を大輔は何とか思い出そうとしていた。彼の家族のことを聞こうと思っていたのだ。名前を忘れるなんて俺はどうかしている。一方、当のハンドルを握る男は、全く別のことを考えて居た。小銃というものを今までの人生の中で見たことも、ましてや触ったことすらあるわけではなかった。高校時代モデルガンに夢中になっていた友人の部屋を訪れたことがあった。