双極性障害の狂気4

次の躁が現れたのは7年前の事だった。通所していた就労移行支援所は様々なイベントもやる。コロナ禍ではあったが屋外に行くということで桜の花見をやったこともある。ハロウィンパーティもあれば、クリスマスパアティーもあった。そしてその年は私に実行委員長就任の打診があった。私は快諾した。だが、煩雑な作業はすべてできそうな人たちに丸投げした。ただ一点、こだわったのは、今年は全員何か出し物をやることだけ。例年、歌いたい人や手品をやりたい人など数人が参加するだけであまり面白くなかった。そこで、今年は全員が参加するという形式にした。

 私は、司会、歌、一幕芝居をやった。芝居は多少経験があったので、イケメンの若いk君と組んだ。日常の父子のやり取りといった何気ないものだが、実は障害からくる彼の童貞を嘆いたものだった。普段から女の子と付き合うことが苦手といっていたが、26歳になっても童貞という彼を皮肉るとともに発破をかける父親を私が演じた。実は童貞ということを彼は公言しなかったので芝居の中でそれがわかるのを彼は躊躇した。「大丈夫だから」と私はいい、台本を書いた。二人で時間のある時に支援所近くの公園でずいぶん稽古した。そして本番前日になって、彼に、台本は無視してやるからね、と告げた。一瞬彼の表情が強張った。「どういう事ですか」「設定は変えないが全編アドリブだからね」

 いざ、幕を開けてみて驚いた。彼は演技をせずに演技していた。わたしは明治大学の文学部演劇学劇専攻課程を卒業している。そこでは、日大の芸術学部のように演技の勉強を実地で学ぶことはない。シェイクスピアアリストパネス、歌舞伎の観阿弥世阿弥など思考方法があるばかりで、演技や演出にしても、あくまでも理論なのである。